羊の書斎

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【読書レビュー】肉食の思想~ヨーロッパ精神の再発見~☆4.0

最近、Youtubeで面白い動画を見て、この本が紹介されていたのでさっそく読んでみました!

 

 

前置き

 

大学生の時、東南アジアに1ヶ月の間、旅に行きました。プーケットの遠浅の海で沖の方にいると、白人の子供の兄弟がこっちに泳いで来ました。

英語で「陸に戻るにはどう帰れば近い?」と聞いてきました。こっちは英語は聞き取れるけど、話せないので身振り手振りでまごついていると、「ダメだ、コイツら英語話せないや。」と、兄弟で話すなり、こちらへの興味を失って2人で帰ってゆきました。。

 

この、20年前の体験でずっと気になってたことがありました。

 

彼らが、こっちが英語を話せないとわかったとたんのこちらに対する無関心さに驚いたのです。

言葉の壁は、東南アジアの人達と何度も感じていましたが、それとは何か違う違和感を感じていました。感情のやり取りがないというか、人として認められていないような。。

これが人種差別を肌で初めて感じた感想でした。小学生くらいの幼い子供でさえ、肌の色、言葉の違いを理解し、黄色い肌の英語を話せないものは人間ではない、と認識していたように感じました。。

 

前置きが長くなりましたが、そんな疑問に、20年越しに答えをくれたのがこの本です。

 

本の説明

 

1966年(2007年文庫本)発行の鯖田豊之さんの書かれた本です。この方は2001年に亡くなられています。医科大学の名誉教授、専攻は西洋中世史ということです。

ヨーロッパ圏とアジア圏の人の精神、思想について、「食生活」の観点から違いを比較する本です。ヨーロッパ圏の文化や歴史の違いを理解しようとしたときに、まず前提として価値観の違いをはっきりさせることができました。

 

概要

 

肉食の欧米人と米食の日本人は、風土、生活様式、思想、考え方が根本的に違います。

ユダヤ人、アフリカ奴隷貿易アメリカ大陸インディアン、オーストラリア先住民アボリジニアステカ王国など、欧米人による虐殺は、日本人では想像が出来ない規模で徹底的に行われます。

 

なぜこのようなことが可能なのか?

 

著者は、欧米人の「肉食文化」に目を付けました。

 

私たちの主食は? そう、お米です。

では彼らの主食は? 答えは「ない」。

 

米だけでカロリー摂取の大半を賄える日本は世界的にみて特異なのです。米は1kgから毎年100kg以上の収穫が可能です。しかし、大量の水と3か月以上の高温を必要とします。対して小麦は1kgから、3~4年に一度(連作障害があるため)20kg収穫できるだけ。主食、という文化は成り立つべくもありません、、

 

しかし、ヨーロッパには日本と違って広大な土地がありました。そこでは年中牧草が生えています。日本と違う穏やかな気候(夏は最高20℃)では雑草が繁らず、牧草たっぷりの天然の牧場があるので、自然と牛や豚を育てて(勝手に育つので)家畜を食べます。

逆に言えばそれを食べるしか生き延びる術は無いのです。

 

もっと具体的に言えば、毎日、豚や牛の頭、あるいは内臓や手足が食卓に丸ごとドンッ!と出て、豚の頭と白く濁った目を合わせながら脳髄を食べ、流れ出る血液を気にもとめずに耳や鼻をナイフで切り落として食べるのです。

 

ちなみに著者は「日本の肉食はおままごとのようだ」と形容しており、本場肉食文化ヨーロッパの生活で、食文化が肌に合わず、帰国後から一時期肉が食べれなくなったそうです。。

 

ヨーロッパ人は残酷なのか?

いや、なぜ何年も家族のように連れ添った家畜を心を痛めずに食べられるのか?

 

豚の頭の皮を切り開いて頬張る女の子に聞くと、「豚や動物は神様が私たちのために準備してくれた食料よ!」と、優しい笑顔で答えたそうです。

 

そう、キリスト教において、人間と動物は別のものであり、知能や感情があるわけではなく、痛みも感じない、神様が準備してくれた「食べ物」なのです。

 

生きとし生けるものに憐れみを感じ、輪廻転生を信じる日本人とは、命に関する考え方、感じ方が根本的に違うのです。

 

動物は人間とは違う。そうやってあらゆる事に線を引いてきました。
著者はこれを「断絶論理」と言っています。

 

地球は丸いのか?
→いいえ、ヨーロッパが世界の中心なので平らです。

 

地球は太陽の周りを回るのか?
→いいえ、人間が世界の中心なので、太陽が地球の周りを回ります。

 

人は猿から進化したのか?
→いいえ、人間は神に似せて造られました。猿は動物で人間とは関係ありません。

 

キリスト教はあらゆることに対して線を引いてきました。~

 

アフリカ人(黒人)は人間ですか?

 

ユダヤ人は人間ですか?

 

インディアンは人間ですか?

 

答えは歴史が証明しています。

 

どんな人におすすめ?

 

世界の歴史や文化、宗教に興味がある方にはぜひ読んでいただきたい一冊です!

文化の違いとは、言葉として知ってはいるものの、こうも違うものかと改めて驚かされました。

 

そして、解説には「食という新しい視点で西洋の歴史を見直す、西洋史学研究の問題作。」とあり、まさにその通り。驚くような内容ばかりで、しかも気候や研究結果に基づき、理論的な話の展開で考察には説得力があり、なるほどな~と感心しっぱなしでした!

 

どんなに分かり合えないと思っても、やはり同じ人間。しかるべき地勢に基づき、長い時間をかけて文化や思想が出来上がるものなのだと感心しました。まさに多様性ですね~。